「日本百名山」のブームが起こって久しい。人びとを、特に中高年を山にひきつけた功績は大きい。ツアーが発達し、山小屋は整備され、登山の安全性は飛躍的に向上した。ガイドブックも充実し、「花の百名山」とか「二百名山」「三百名山」と裾野もひろがった。プラス面は、それこそやまほどあった。
あえてマイナス面を述べておこう。まず、深田久弥自身が書いているように、「その数倍の山に登って」みたのち、あえて選んだ。その過程を大切にしたい。北海道の山岳会のひとが、「ほかにも素晴らしい山がいっぱいありますよ。そっちも登ってやってくださいね」と、寂しそうに話していたのが印象的でした。
また、本書にはその山の歴史・文化・自然などがていねいに語られている。それは選定条件を考えればとても自然な結果で、山を愛するということがどういうことか、あらためて教えられる思いである。
著者は、山を愛する気持ちから、この数倍の山に登り、何度も何度も同じ山にも登っている。自身宿題としていた茅が岳が終焉の地となったのは、最期の日まで、登っていない山への愛着をもち続けた表れのように思えてならない。
私も、ブームのころ数えてみれば50座くらい、ひとくぎりの年を迎えて70座あまり、しばらく増えていない。新しい山と、あといくつ出会えるか。楽しみである。
2013.3.10.記 |