海の都の物語

book-08「海の都の物語」
塩野 七生  中央公論社
  「塔に登れ。そして、そこから海の方角を見よ。おまえたちの見る地が、これからのおまえたちの住み家になる。」 天の声が聞こえた。BC452年のこと。以来一千年、地中海の小国ながら国体を守り通した。その歴史が語られる。
塩野七生は哲学科出身の女性で、イタリア人の男性と結婚し、イタリア在住の作家である。 最初の作品は「ルネサンスの女たち」。 最近作は「ローマ人の物語」。歴史的な事実の空白を、自由な、しかしもっとも真実に近い言葉で補う。歴史小説とも少し違うスタンスで語られる物語。巻末に繰り広げられる、膨大な参考文献が、作者の姿勢を表している。
1982.  31才

ヴェネツィア共和国はイタリア半島の片隅で、干潟のうえに都市国家を建設し、一千年のあいだ独立を守り通した”国家”である。その金貨は、当時、地中海世界の共通貨幣となり、常に経済の中心の座にあった。
外に対しては、情報国家として外交に長け、傭兵を駆使して自国の独立をまもった。内には、政治体制を維持する制度を工夫し、汚職や癒着を生まない体制を維持し、ナポレオンにより国の歴史を閉じた。
時代が違うといえばそれまでだが、常に存亡の危機に陥るという危険な地勢的な位置にありながら、統治する者がその責任を果たし続けた歴史である。

日本の現状を想うと、愚痴になるので、内容の紹介を終了する。今だからこそ、一読の価値がある。

2013.3.30.  記

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