加藤文太郎は実在の登山家であり、小説では本名で語られている。 単独行の文太郎と呼ばれ、冬の北鎌尾根で遭難したほかは常に単独で山に挑み、冬の立山を単独で越えるなど、超人的な体力と想像を絶する登山技術を身に付けた、若き登山家であった。 戦前の、日本全体が貧しかった時代に、携行食糧に工夫を重ね、装備も自身のアイデアで作り、不可能と思われるルートを次々と制覇していった。その視線の先には、ヒマラヤ行があった。 「痛快」という言葉が最もふさわしい登山家であった。青年時代にこの本を読んで、山への興味をかきたてられた人は多いのではないか。装備も進歩し、容易に山行が楽しめるようになった現代に、山に惹かれた文太郎のこころを想うのも、必要なことではないだろうか。 2013.5.1. 記 |