東京「君が代」裁判 第5次訴訟の記録です
地裁結審における弁護団の最終弁論(2025.3.24)です
予防訴訟から20余年
その間の争点が整理されているので掲載します
平松真二郎弁護士による更新弁論の要点
①本件は公権力行使の限界を踰越(ゆえつ)するもので、教基法が禁じる「不当な支配」に当たる。
②職務命令と懲戒処分による強制は原告らの個人の尊厳を踏みにじる現代の踏み絵だ。
③セアート勧告(2019年)は不服従の行為が市民的権利として認められるとした。本件訴訟では人権保障の国際水準に叶う判断が求められる。
④懲戒処分には適正手続きが確保されていなければ、処分権者の懲戒権濫用と評価される。
⑤本件訴訟は、これまでの最高裁判決の多数意見の判断・結論に漫然と従って判断されてはならない。
⑥一連の最高裁判決以降、より精神的自由に対する制約が強められ、各懲戒処分の実質的内容も加重されている事実経過を正確に認識した上で判断されなければならない。
⑦社会の多数派の意識が少数者の人権を蔑ろにしようというとき、敢然と少数者の側に立って人権を擁護するのが司法の役割。司法が違憲な公権力の行使を看過し追認することで、人権の侵害に手を貸すようなことがあってはならない。
国旗国歌法強制の真の目的について/雪竹奈緒弁護士
2003年の石原都知事再選後から一部の教育委員らの圧力によって通達が発出され、
①管理職に対する執拗な「指導」、
②都教委職員の派遣による式の監視、
③再発防止研修の強要、
④再雇用・再任用における差別、
⑤特別支援学校におけるフロア形式の卒業式廃止、
⑥内心の自由に関する説明の禁止と起立しない生徒に起立を促すように指導する、
⑦再処分による執拗な攻撃、などの異常な統制が始まった。
事実経過に目を向けると、10.23.通達の真の目的は、命令に違反する教員を炙り出し、懲戒処分に加え、度重なる不利益を与え続けて職場から排除し、上意下達体制を教育現場に導入することにより、教職員や生徒の{心」を支配していくことにあったのは明白である。
「憲法判断の客観的アプローチ」について/白井劍弁護士
①国家の象徴に対する敬意表明を強制する権限が行政にあるのかという観点から違憲性を審査し、公権力の権限の限界を画する必要がある。
②一連の最高裁判決は「自己の考えと相容れないからといって職務命令に反した事件」とピント外れの判断をしている。
③起立斉唱は国家の象徴への敬意表明行為で、立憲主義に反し、一般社会においては義務付けできず、学習指導要領や地公法によって正当化されることは考えられない。
④多数者による個人への強制に限界が存在することは、南九州税理士会事件1996年最高裁第三小法廷判決で明らかにされ、判決が依拠する1968年12月4日大法廷判決は、団体における個人への義務づけについて「当然、一定の厳戒が存する」と説いた。
⑤行政の権限には憲法上内在的な制約による限界が存在する。国家の象徴への態度は個人の判断で選択すべき事柄で、その選択の余地を奪うことは、その限界を超える。
⑥従来の最高裁判例でのアプローチとは異なる別個の判断を求める。
起立斉唱の強制が憲法19条に違反することについて/山本紘太朗弁護士
①原告らの思想・信条は人格と切り離せない真摯なものだ。
②最高裁は起立斉唱行為を「慣例上の儀式的行事における儀礼的な所作」と評価するが、本質は「国家に対する敬意表明」である。「間接的ね制約」という概念で思想及び良心の自由の直接的な制約を否定する手法は誤りだ。
③この問題についてCEARTや自由権規約委員会から出た勧告は、いずれも直接的な制約であることを前提とし、都教委の運用が国際文書に適合していないことが明白になった。
④ILO/UNESCO勧告(1966年)は日本が採択しており、その遵守に国際道義上の責任がある。
⑤最高裁が「間接的制約」を許容した根拠の「必要性及び合理性」は詭弁で、慎重に違憲審査すれば、不起立教員を排除するという都教委の不当・不正な目的や動機は明らかだ。
裁量権の逸脱濫用/金井知明弁護士
①本件各処分は裁量権の逸脱・濫用で違法。
②今年2月に公表されたILO/CEART報告書は都教委による国歌起立斉唱の強制に対し是正勧告を行っている。これで3度目の是正勧告で、この事実を考慮する必要がある。
③戒告処分には重い不利益を伴なうが、最高裁判決後にはさらに重くなった。
④定年前5年以内に処分を受けた場合は、再任用の採用を拒否され、臨時任用・時間講師も不採用となる(原告の事例を紹介)。
⑤不起立教員は、繰返し思想の改変を迫られる(原告の事例を紹介)。
⑥CEARTが繰り返す是正勧告は不起立が式典に混乱を招くような行為ではないことを指摘し、懲戒処分を行う理由はないとする。
⑦再処分は、原処分より不利益が加重され拡大している。7~8年前の行為に対し再処分を行い、新たな不利益を与えることは許されない。
⑧再処分された原告らは、減給処分時に経済的不利益とは別の重い不利益も被っていたが、これは回復されていない。
⑨2012年1月16日最高裁判決は、都教委に「慎重な配慮」や「謙抑的な対応」を求めたが、20年以上にわたり都教委は漫然と懲戒処分を繰り返し、国連機関から繰り返し是正勧告を受けても無視し自浄作用がない。裁判所の役割が期待される。
手続き的違法について/今田文明弁護士
①地方公務員の行政処分にも告知・聴聞、理由付記などの適正手続きの要請がある。
②本件では、事前の聴取手続も行われておらず、弁護士の同席という当然の権利も都教委側は認めなかった。
③本件各処分の処分説明書を見ると、なぜ戒告なのか、なぜ減給なのかを了知しえない記載しかないもので、理由付記の違法がある。
④減給処分が取り消された後、更に再処分したケースでは、原処分と処分説明書が同一の記載となっており、取消判決をどう踏まえたのかの説明が一切なく、「処分の相手方から了知し」えない記載で、理由付記の違法がある。
裁判所に望むこと/澤藤統一郎弁護士
①司法本来の役割は、公権力行使の誤りを正し憲法の理念を実現することにある。憲法・教育の理念について理解を欠いた東京都の教育行政が誤った公権力行使を続けていることに対し、司法の責任も指摘せざるを得ない。
②我が国の教育行政は、複数の国際人権専門機関から繰り返し是正勧告を受けていると同時に、司法の在り方も批判の対象になっている。
③裁判所には、原告らの切実な願いに応えて、遺漏なき判断をお願いする。
④本件は立憲主義の根幹を問う訴えだ。本件職務命令は、国家に対する敬意表明の強制にほかならず、「権力主体としての国家」が「人権主体の個人」に対して敬意表明を権力で強制している構図にあり、国家と個人との憲法価値の優劣が問われている。
⑤憲法は、個人の尊厳を国家に優越する至高の価値としており、本件各懲戒処分はすべて違憲・違法で取り消されなければならない。
⑥また、敬意表明の権力的強制は、原告らの進行の自由をも侵害しており、当事者はこの葛藤を「踏み絵」と表現している。
⑦自らの宗教的信念を護るために、行事の進行を妨害することのない消極的な態様での不起立行為に制裁を科すことは許されない。この法理は神戸高専剣道実技拒否事件最高裁判例が示している。
⑧憲法76条3項は、行政が人権を侵害している時、これを糺すことを期待している。「憲法の番人・人権の砦」とは裁判官が独立して果たすべき役割を指している。違法な教育行政を糺し、個人の尊厳を取り戻すことが出来るのは、本法廷の裁判官諸氏以外にいない。憲法擁護の使命を持った法律家として応えていただきたい。