5次訴訟・判決に対する声明

声    明

1 本日、東京地方裁判所民事第36部(清藤健一裁判長 西村康一裁判長代読)は、
 都立学校の教職員15名に対する卒業式・入学式の国歌斉唱時の起立斉唱の強制にかか
 わる懲戒処分(減給10分の1・1月2名6件、戒告15名20件)の取消しを求めて
 いた事件について、原告らに対する懲戒処分のうち、2名6件の減給処分について、東
 京都教育委員会の裁量権逸脱・濫用に当たり違法であるとして取り消す原告ら勝訴の判
 決を言い渡した。

2 本件は、東京都教育委員会(都教委)が、2003年10月23日に「入学式、卒業
 式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」との通達(10・23通達)を発
 令し。全ての都立学校の校長に対し、教職員に「国旗に向かって起立し国歌を斉唱する
 こと」を命じる職務命令を出すことを強制し、さらに、国歌の起立斉唱命令に違反した
 教職員に対して懲戒処分を科すことで、教職員らに対して国歌の起立斉唱の義務付けを
 押し進める中で起きた事件である。
  原告らは、自己の歴史観・人生観・宗教観等や長年の教育経験などから、国歌の起立
 斉唱は、国家に対して敬意を表する態度を示すことであり、教育の場で画一的に国家へ
 の敬意を表す態度を強制されることは、教育の本質に反し、許されないという思いから、
 校長の職務命令に従って国歌を起立斉唱することが出来なかったものである。このよう
 な原告ら教職員に対し、都教委は、起立斉唱命令に従わなかったことだけを理由として
 原告らに対し戒告・減給等の懲戒処分を科してきた。

3 判決は、国歌斉唱時の起立等を命じる校長の職務命令が憲法19条に違反するかとい
 う点については、2011年5月30日以降の一連の最高裁判決と同様に、起立斉唱が
 命じられることは、原告らの思想・良心を直接否定するものではないとしながら、原告
 らの世界観、歴史観、信条等と異なる外部的行為が強制される点で思想良心に対する間
 接的な制約に当たるとの判断を示したうえで、そのような間接的な制約については、制
 約の目的及び内容と制約の態様等を比較考量して、「当該職務命令に制約を許容し得る
 程度の必要性及び合理性が認められるか否か」を判断基準として、教職員に対する国歌
 斉唱の義務付けは必要性及び合理性が認められるとして、憲法19条違反とは認めなか
 った。
  また、起立斉唱を命じる職務命令が信仰に由来する外部的行動の制限を介して信教の
 自由の間接的な制約となることは認めたものの制約を許容しえる程度の必要性及び合理
 性が認められるとして憲法20条違反とは認めなかった。
  さらに、入学式及び卒業式における起立斉唱行為は、一般的、客観的にみて、これら
 の式典における慣例上の儀礼的所作としての性質を有するものであって、特定の政治的
 意見の肯定又は否定という性格を有するものとは言えず、起立斉唱命令が特定の政治的
 見解を享受することを強制するものではないとして、教師の教育の自由を侵害するもの
 ではないとした。
  そして、判決は、都教委による10・23通達及び各学校長に対して行われたその後の
 一連の指導等について、卒業式・入学式等における国旗掲揚、国歌斉唱の実施方法等に
 ついて、都立学校の校長らの裁量を許さない点で教育政策上の問題は見られるが、都立
 学校を直接所管している都教委が必要と判断して行ったものである以上、教育基本法1
 6条の「不当な支配」に該当するとは言えないとの判断を示した。
  以上の通り。本判決は、愛国的行為の強制は民主主義とは相容れないことが指摘され、
 起立斉唱命令を静かに拒否する「不服従」を市民的権利として認めるCEART勧告等
 が指し示す人権保障の国際水準にかなう判断はなされなかった。

4 しかしながら、本判決は、本件の先行事件である東京「君が代」裁判1次訴訟、2次
 訴訟の最高裁判決(1次訴訟につき2012年1月16日、2次訴訟につき2013年
 9月6日)の示した「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては、
 本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となる」とした基準に従って、原告らに
 科された「減給」処分には、相当性が無く、社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権の範
 囲を逸脱・濫用しており違法であるとの判断を示した。
  6回目以上の不起立に対する減給処分5件についても、「起立や秩序の保持等の必要
 性の高さを基礎付ける事情」があるとは認められないとして、減給処分を選択した都教
 委の判断は、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒
 権者の裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとの判断を示した。
  一方で、本判決は、戒告処分については、懲戒権者の裁量権に範囲内に属することが
 というべきとし、勤勉手当の減額、昇給幅の減縮、昇給、昇任等における取り扱いは、
 戒告処分自体による不利益とは言えず、職務命令違反に対して戒告処分を科することが
 重きに失するとは言えないとして、裁量権の範囲の逸脱または濫用には当たらないと
 し、その取消しを認めなかった。
  また、2次訴訟から4次訴訟において減給処分が取り消された者に対する、判決確定
 後、さかのぼって取り消された処分と同一の事実を理由として科された再度の戒告処分
 についても、取消判決について「減給処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的
 な事情が認められないとして取り消された」ものであるとして、再処分が前訴判決の拘
 束力に反しているとは言えないとして、取消しを認めなかった。

5 本判決が、戒告処分がもたらす実質的な不利益を十分に検討しないまま、懲戒処分の
 形式的な効力に拘泥して、戒告処分を容認した点は、司法が担うべき行政権の裁量統制
 の役割を放棄したものであって受け容れることはできない。また、従前の最高裁判決に
 漫然と従い、憲法違反、教育基本法違反を認めなかった点はきわめて遺憾である。
  しかしながら、わたしたちは、本判決が、6回目以上の不起立に際して減給処分を科
 された原告について、当該減給処分も都教委の懲戒権の逸脱・濫用にあたり違法である
 との判断を示した点については、最高裁に引き続き、都教委による不起立の回数のみを
 理由とする加重処分を断罪したものであって、都教委の暴走に歯止めをかける判断であ
 り、司法が、明らかに行き過ぎであり違法であると評価し、その懲戒処分を取消したこ
 とを評価したい。

6 本判決は、国歌斉唱時の不起立を理由とする教職員に対する減給処分が違法となるこ
 とを明らかにしたものであり。私たちは、都教委に対して国歌の起立斉唱の義務付けに
 対する反省と撤回を強く求めるものである。
  今度こそ、都教委は司法判断を受け入れ、教職員に対するすべての懲戒処分を撤回す
 るとともに、直ちに10・23通達を撤回し、教育現場での「国旗・国歌」の強制と、
 「国旗・国歌」強制に象徴される教職員に対する管理統制を改めなければならない。
  わたしたちは、本判決を機会に、都教委による「国旗・国歌」強制を撤廃させ、児童・
生徒のために真に自由闊達で自主的な教育を取り戻すための闘いにまい進する決意で
あることを改めてここに宣言する。
この判決を機会に、教育現場での「国旗・国歌」の強制に反対するわたしたちの訴え
に対し、皆様のご支援をぜひともいただきたく、広く呼びかける次第である。

 2025年7月31日

東京「君が代」裁判(5次訴訟)原告団・弁護団

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