5度目の提訴ですが、この機会に「初めて」この問題に接する方のために、声明文に注釈を入れました。一人でも多くの方に、私たちの状況を知って頂きたいと思います。
私・永原の個人的な責任で(注)や解説・文字装飾を入れましたので、誤りがあればご指摘ください。
東京「日の丸・君が代」処分取消五次訴訟提訴にあたっての声明
1 私たち東京「日の丸・君が代」処分取消訴訟原告団(東京「君が代」裁判原告団)15名は、本日、東京都教育委員会を被告として、原告らに対する懲戒処分26件の取消を求めて、東京地方裁判所に提訴しました。
原告ら(都立学校の教員・元教員)は、2003年10月23日に出された通達(「10・23通達」)に基づく職務命令に違反したとして処分を受けました。この通達は、学校長に対する職務命令(注1)として、校長が、教職員あてに卒業式等において「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」を命じる職務命令を出させることをその内容としています。これまでにも起立斉唱命令違反を理由とする懲戒処分の取消訴訟を提起してきましたが、今回の提訴は、東京「日の丸・君が代」処分取消訴訟としては第5回目の提訴となります(第1次訴訟2007年2月提訴:原告173名、第2次訴訟2007年9月提訴:原告67名、第3次訴訟2010年3月提訴:原告50名、第4次訴訟2014年3月提訴:原告14名)。
2 10・23通達をめぐっては、2011年5月30日以降、最高裁において、起立斉唱に関しては、「国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為」であるとして個人の思想良心の自由に対する間接的な制約となるとの判断が示されました。起立斉唱命令に違反したことを理由とする懲戒処分についても、第1次訴訟の最高裁2012年1月16日判決で「減給以上の処分を選択することの相当性を基礎づける具体的な事情」が必要であるとされ、過去の不起立を理由とする処分歴が相当性を基礎づける具体的な事情に当たらないとして、都教委が行ってきた「累積加重処分」(注2)を断罪し、減給以上の処分がすべて取り消されました。減給以上の処分が取り消される判断は、第2次訴訟の最高裁2013年9月6日判決でも確認され、第3次・第4次提訴でも踏襲されています。なお、戒告については取り消されることはありませんでしたが、第1次訴訟最高裁判決では、都教委に対して強権的に処分を繰り返すのではなく謙抑的な対応によって教育現場の状況の改善を求める補足意見(3)が出されています。
3 原告ら起立斉唱命令違反を理由として懲戒処分を受けた教職員は、自身の思想、信条から起立斉唱できないにもかかわらず、そのことを理由として繰り返し懲戒処分を科され、再発防止研修(注4)の受講を義務付けられるなど自身の思想信条に対する不利益を受けながら、また、処分されたことを理由として勤務評定をさげられる等教員としての尊厳を傷つけられながらも、粘り強く裁判を闘ってきました。
しかし、都教委は、最高裁判決が求める謙抑的な対応による解決ではなく、強権的に処分を繰り返す対応に終始してきました。原告らが求める話し合いには一切応ぜず(注5)、処分を取り消された者への謝罪・名誉回復は全く行わない、断罪された「累積加重処分」の根本的な見直しすら行わない、さらにはあろうことか再処分(注6)を強行する、再発防止研修を異常なまでに強化する一方、現場では、批判を許さない体制を作り上げ、最後には再任用を打ち切って教育現場からの排除に繋げる等々、反省のかけらも見られません。
4 原告らの中には、一度は減給以上の処分を取り消された後、再び同じ卒業式等での不起立を理由として(注6)今回取り消しを求める戒告処分を受けた者が含まれています。都教委の違法な懲戒処分が取り消されたにもかかわらず、なぜ原告らは、精神的苦痛も十分に慰謝されぬまま、再度の懲戒処分によってかつての減給処分以上の経済的損失を被らなければならないのでしょうか。とりわけこの間に、都職員の昇給と勤勉手当に関する規則が2度にわたって改訂され、懲戒処分による経済的損失が大幅に増大されています。再処分を受けた者は、都教委が違法な減給処分をしなければ受けなくて済んだはずの経済的損失を被ることを余儀なくされています。
また、都教委は、現在のコロナ禍においても感染防止のため卒業式等の簡略化を求めつつ、「国歌斉唱」のみは必ず実施するよう指示し、職務命令を出し続けています。「国歌斉唱」の「職務命令」に執着し、実質的な二重処罰となる再処分をも厭わない都教委の姿勢はもはや異常というほかありません。
本日までに「10・23通達」に基づく起立斉唱命令に違反することを理由とする懲戒処分は485件という膨大な数にのぼっています。この数字も、東京の教育行政の異常さを物語っています。
そして、2019年、国際機関(ILO/UNESCO)から、式典で明らかな混乱をもたらさない場合にまで国歌の起立斉唱行為のような愛国的な行為を「強制」することは、個人の価値観や意見を侵害するとの勧告がだされたことによって、東京の教育行政の異常さは国際社会にも認識されるに至っています。
5 「10・23通達」発出からすでに17年余がたちました。10・23通達以来の職務命令によって教職員を従わせようとする都教委は、学校の命である自由闊達な教育実践(注7)を大きく阻害しています。その最大の被害者は生徒たちです。これ以上、可能性に満ちた生徒たちを都教委による管理統制の下に置くことはできません。
私たちは、本日、「人権の最後の砦」である裁判所に懲戒処分の取消を求めて第5次訴訟を提訴しました。今こそ裁判所は、都教委の暴走から国民の権利・自由を守るため、問題解決に向けてその役割を果たすべきときです。
教職員や生徒らの「思想・良心・信仰の自由」が守られる自由で民主的な教育をよみがえらせるため、教職員・生徒・保護者・市民と手を携えて、国旗・国歌(日の丸・君が代)強制に反対(注8)し、すべての処分を撤回させるまで闘い抜く決意です。
皆様のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。
2021年3月31日
東京「君が代」裁判5次訴訟原告団
同 弁護団
(注1)教育委員会(行政)は教育職(教員)に対して教育内容について直接命令することが禁じられています。そこで、高等学校の管理職(校長・副校長)に対して、職員に対して職務命令を発出することを命令しました。同時に、職務命令の「ひな形」を例示しました。
(注2)当初、1回目は「戒告」、2回目は「減給1月」、3回目は「減給6月」、4回目は「停職1月」、5回目は・・・というものでした。さらに、正式には表明していませんが、結果的に定年退職後の非常勤講師等の再任用を拒否しました。定年後の生活を決定的に否定するものです。
(注3)最高裁は5人または15人の裁判官による審理が行われ、その多数決で判決が決まります。判決に疑義があったり、判決に反対の裁判官は「補足違憲」または「反対意見」を判決に付け加えることができます。東京「君が代」裁判では、この補足意見や反対意見が多いのが特徴です。
(注4)思想・信条の自由に触れる研修は違憲・違法にあたることから、職務命令違反に関する条例の解説や統計資料の解説が主体となります。私の時代では、非違行為の統計資料を与えられて、所感を求められました。また、「教員として法を守ることの意義」についてどう思うか、などの「一般論」が多かったように記憶しています。
(注5)私が初めて書いた陳述書のタイトルが、奇しくも「話し合おうとしない人たちへ」でした。10.23通達の発出以来、都教委は一度も話し合いを拒否しています。
(注6)減給以上の処分は裁判で「裁量権逸脱」として否定されました。退職者は、その時点で「処分取消」が確定しますが、現職者に対しては都教委は「再処分」を強行しています。最高裁で判決が確定するまで、裁判には数年以上の年数がかかりますが、「減給」が裁量権逸脱なら「戒告で」というわけです。あくまで、「処分」を振りかざす態度です。
(注7)10.23通達以前の職員会議は、議案について疑問があるとき、「修正案」を提出し、教員全員の意志を多数決でを問い、校長がそれを承認するという手順を踏んでいました。しかし、現在は「多数決」どころか議長が「可否を諮る」ことを禁止しています。職員会議は、指示・連絡の場にとどまっています。
(注8)この裁判の焦点は、この「強制」にあります。話し合いを通じて学校運営を行うこと、共通認識を持つことで、初めて学校教育がなりたちます。処分や人事・再雇用拒否などの権力による「強制」は、教育の場にはあってはならないことです。