自分たちで生命を守った村

Book-18 自分たちで生命を守った村   菊地武雄 著

岩波新書 668 1968

軒を没する雪、12月から 4・5月まで交通が途絶する僻村ーー岩手県沢内村。長い間、無医村であった。やがて、村ぐるみの保健活動に立ち上がり、雪を征服し、乳児を守り、老人の医療費を無料にし、水田を倍増した。その先頭に立った故深沢晟雄村長。その8年間の村政をつぶさに跡づけた本書は、地方自治の在り方に重要な示唆を与えている。
深沢村政の本質は、要するに人間疎外の生活から人間回復の道を目ざしてのものだった、といえないでしょうか。そして今の政治にもっとも強く望まれ、しかももっとも欠如しているものは、深沢さんが求めて止まなかったところの人間回復の政治ではないでしょうか。

1984  33歳

「乳児死亡率」という数値がある。誕生から1年以内の死亡率である。乳児死亡率 0 の達成は予想外に難しい。人口の多い都市部でも、山奥の過疎の村でもそれぞれの困難さがある。岩手県の秋田県と接する山間地域の村で、初めて達成され、その後も何度も達成しているという。また、老人医療の無料化に踏み切り、劇的な医療費の減少と老人の健康な生活を導いたという。そのような村政が現実にある。むかし、国が老人医療を無料化しようとしたとき、村長と病院長は国会に招かれ、参考人として証言した。

住民の命と健康を守るのだという、確固たる信念と、柔軟な発想のもとに信じられないような村政が行われた。国や県からの圧力に対して、深沢村長は、「私は憲法を守っているのだ」と答えている。

(第二五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。)

岩手のことを調べていると、その発想の豊かさに驚かされる。江戸時代に、犠牲者を伴わない百姓一揆を、唯一成功させたという田野畑村、無形文化財第一号に指定された早池峰神楽の岳・大償の部落、宮沢賢治や石川啄木を育て、遠野物語の故郷でもある。そのような伝統・風土の土地である。度重なる津波を乗り越えてきた土地であるが、このたびの復興計画を見ていると心配でならない。もっと、土地の人びとのこころにより沿った支援が必要なのではなかろうか。

2015.10.14. 記

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