東京「君が代」裁判のあゆみ(全文)

五次訴訟・第二回口頭弁論
傍聴ハンドブックより
2021.11.8.

(3)東京「君が代」裁判のあゆみ

①一次訴訟の経過と最高裁判決の内容

【訴訟の経過】
 2007年2月7日に173名が提訴した一次訴訟は、10回の口頭弁論を経て、2009年3月26日に「全面棄却」判決が言い渡され、控訴審に移行。6回の口頭弁論を経て、2010年3月10日に逆転勝利判決(大橋判決)が出されました。違憲判断こそなかったものの、裁量権逸脱濫用による違法により、全員の処分取消を命じるものでした。その後双方が上告し、最高裁は都側の上告棄却と、原告側上告受理申立への不受理決定をした上で12月12日に弁論を開き、2012年1月16日に以下のような判決を出しました。

【最高裁判決の内容】
 最高裁は、減給処分1名のみを裁量権逸脱濫用による違法として高裁判決を維持し、残りの166名分の戒告処分については高裁判決を破棄し、これを有効としました。
この判決の判断の要点は以下の3点です。
①教職員に対する国歌起立斉唱の職務命令は憲法19条違反ではない。
②職務命令に違反して不起立等の行為をした者に対する戒告処分は、「裁量権の範囲内における当不当の問題として論じる余地はあり得る」が違法とは言い難い。
③職務命令違反による戒告一回の処分歴があることのみを理由に減給処分を選択した都教委の判断は、「懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れない」
※この判断を「裁量権逸脱濫用による違法」といいます。
なおこの判決は、全員一致ではなく4対1の多数意見によるものでした。よって反対意見が1つ、そして判決に関する補足意見が2つ付いています。
○多数意見による判決理由
憲法19条違反に関しては、2011年6~7月に出された関連訴訟判決(戒告処分適法)と同じ理由によるとしたが、減給以上の加重処分については、「不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要する」として、単なる不起立の繰り返しを理由に処分を加重するのは違法であるとした。
○宮川反対意見は「戒告も違法」
宮川光治裁判官は、本件職務命令が憲法19条違反の可能性があるとし、裁量権逸脱濫用の審査においても戒告処分は違法で取り消されるべきであるとした。
○補足意見では都教委の姿勢に再考を求める
桜井瀧子裁判官は補足意見で、一律の累積加重処分は「法が予定している懲戒制度の運用の範囲とは到底考えられない」とし、「不起立と懲戒処分の繰り返しが行われていく事態が教育現場の在り方として容認されるものではないことを強調しておかなければならない」「これまでにも増して自由で闊達な教育が実施されていくことが切に望まれる」などの意見を付した。

②二次訴訟の経過と判決の内容
 二次訴訟は、2007年9月21日に67名の原告が提訴。2011年2月3日に結審後、7月25日に全面棄却判決が出ましたが、控訴。2012年7月20日の第一回目の口頭弁論でただちに結審となり、10月31日に判決が言い渡されました。この判決は、一次訴訟判決を踏襲して、減給以上のすべての処分を裁量権逸脱濫用による違法を理由として取消し戒告処分は是認する、一部逆転勝訴判決になりました。
その後、上告審では、2013年9月6日に上告棄却の判決が出て、高裁判決が確定し、22件の減給・停職処分の取消が確定しましたが、新たに鬼丸裁判官による補足意見(「不利益処分を課することが裁量権の濫用あるいは逸脱となることもあり得る」など)が付されました。

③敗訴した都教委による新たな攻撃が…
 なお、判決確定に伴って、減給処分を取り消された原告らに処分による減額分の給与支給手続きが進められましたが、驚くべきことに、都教委は12月19日に、7名の現職教職員に対して戒告処分を発令してきました。この暴挙は「再処分事件」として、今回の五次訴訟で争われます。

④三次訴訟の経過と判決の内容など
 2010年3月2日に50名の原告が、新たに三次訴訟を提訴。取消を求めた処分の内訳は、戒告25件、減給10分の1一月21件、減給10分の1三月2件、減給10分の1六月7件、停職一月1件、停職三月1件の合計57件で、その処分内容は一次・二次訴訟と比べて一層苛酷なものでした。また、戒告処分に伴う給与減額や昇給停止の扱いも不利益が拡大するよう変更され、戒告処分による経済的損失は減給処分と大差がない状況となりました。そこで戒告処分を適法とする最高裁判決の認識を改めさせ、全処分の取消しを認めさせるための主張・立証を強化しました。
一審は15回の口頭弁論を経て、2015年1月16日に判決が出ましたが、この判決は一次・二次訴訟の最高裁判決の判断枠組みの中にとどまり、原告26名の減給・停職処分取消し命令を出しましたが、戒告処分は適法として請求を棄却しました。
この地裁判決後、都教委は減給処分取消判決の21名分は控訴せず判決が確定したものの、5名の停職・減給処分取消し判決に対し控訴、原告側は全原告の国賠請求棄却に対し控訴し、口頭弁論2回を経て、2015年12月4日に高裁判決が出て、一審判決が維持されました。その後都教委は5名に対する上告は断念、原告側か最高裁判所へ上告および上告受理申立てを行いましたが、7月12日付で最高裁が上告棄却、上告受理申立の不受理決定とし、原審判決が確定しました。

⑤三次原告に対する再処分攻撃
 都教委は、一審判決後、減給処分取消しとなった21名のうち現職教員9名に対し、直ちに給与損失分の清算と遅延損言金支払いを通告し、給与損失分を給与振込口座に入金してきたのち、2015年3月30日に退職直前の原告1名に対してのみ戒告処分を発令。残りの8名に対しては新年度の4月28日に発令しました(再処分)。
なお、都教委はこれらの処分発令に先立って、9名全員に対して7~8年も前の不起立について「事実確認」を行いました。こうした不当な「再処分」攻撃に対して、全員がただちに東京都人事委員会に不服審査請求を行い、二次訴訟判決後の「再処分」事件と併せて、五次訴訟につながるたたかいを開始しました。

⑥四次訴訟の経過と判決の内容など
 4次訴訟は、2010~13年に処分された14名の原告が19件牛(戒告12件、減給1月4件、減給6月2件、停職6月1件)の懲戒処分取消しを求めて提訴しました。
なお、一次訴訟最高裁判決後の2012、13年の処分については累積加重処分が行われず、2・3回目の不起立に対して戒告処分が発令された一方で、被処分者に課せられる「服務事故再発防止研修」は異常なほどに過酷化しました。また2013年には4・5回目の不起立に対して減給1月の累積加重処分が出される事態も発生。このように処分量定や懲罰内容が従来と大きく変化した事例を審理することになりました。

この訴訟では、第一に、国旗起立・国歌斉唱の義務づけ自体が違憲違法であると強く主張し、そもそも公権力は、国旗国歌に対する敬意表明を、公務員を含む国民に強制する権限を持たないことを指摘し、新たな違憲判断を求めました。加えて、個人の権利侵害による違憲違法として、憲法19条、23条、26条違反ならびに国際条約等に違背することを強く主張してきましたが、裁判所の判断は、三次訴訟までの判断枠組みを出ることはなく、地裁判決で5件の減給処分を取り消した内容を追認するだけのものとなりました。この裁判では、過去に判例のなかった4回目・5回目の不起立に対する減給処分の取消判決が維持されるかどうかも注目されましたが、この減給処分は裁量権逸脱濫用とされ「一部勝訴」の結果となりました。

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