著者は、パスツール研究所の所長であり、1961年ノーベル生理医学賞を受賞した生物学者である。1976年、脳出血のため死去。私がこの本に接した2年後であった。
「生物と非生物を見分ける」という仮想問題から始めて、生物の、特に人類の発生と進化の過程を分析している。生物の「自己複製能力」を指摘しながらも「合目的性」に基づくとしか思えない「進化」の過程を分析。
文中のサブタイトルを紹介すると、「種の安定性」「淘汰の圧力」「言語と人間の進化」「遺伝的衰退」「思想の淘汰」「価値と知識」「知識の倫理」・・・
難解な書物である。生物学の先端的な知識と、キリスト教をベースとした哲学的思考が交錯し、日本人の感覚から離れなければ理解できない。
現代、科学が超高速で発達し、AIがそれを加速している。一方宗教は依然として派閥対立から無益な抗争を続けている。人類が「進化」を始めたとき、宗教は大切な役割を果たしたと思う。しかし現代において「進化」が暴走を始めたとき、この進化をコントロールする「新しい宗教」が必要ではないか。
半世紀前に当時としては理解が困難なテーマであったにもかかわらず、フランスでは「平積み」で書店に並んでいたという。
2024.1.6.記 |