争点8

外国籍生徒への配慮・1

私が担任として卒業式を迎えようとしたとき、生徒が「自分は在日朝鮮人である」ことを打ち明けに来ました。卒業証書は本名で記名したものを受け取りたいという理由からです。現在でも都立高校では、外国籍であることを隠して「通称名」で学校生活を過ごしている生徒は多数います。国籍を学校に届け出る必要はないので、潜在的には相当数いるはずです。その生徒は、いじめや偏見を避けるため、担任の私にさえも、3年間本名を隠し通していたのです。
私はこの生徒の立場を考えるとき「日の丸に礼をし、君が代を唱え」と指導することは出来ません。なぜなら彼らにとっての日の丸・君が代は、かつて、祖父母たちが受けたであろう暴力と凌辱を思い起こさせるものである可能性は非常に大きいからです。一方、そのことを外部に対して表明することは、自身の学校生活だけでなく、地域社会に対しても、また家族の生活(生業)に対しても直接影響を及ぼすおそれがあります。だれも守ってはくれません。彼は、起立せざるを得ないのです。耐えるしかないのです。そのような境遇の生徒が居ることを理解していながら、私が起立・斉唱し、彼らにそのような行為を促すことは、その生徒の心を踏みにじることであり、私たちの人間関係を放棄することになります。
目に見えぬ日本の社会の圧力がこの生徒を立たせているのです。「生徒には強制していない」と教育委員会は言いますが、日本社会が内包している差別は厳然としてあります。残念ながら私の周囲にも、今なお偏見に満ちた言動をして憚らない大人たちは、たくさんいます。日本の社会はその意味でまだまだ未成熟です。教師の職責として、我々は生徒を守る義務があると考えます。

原告の陳述書より

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