10.23通達に対して、240名もの教職員が職務命令に背き、170名余りが第一次訴訟を立ち上げました。また、400名近い人たちが、予防訴訟に参加しました。
これらの人びとは、一人ひとりが独立に判断していたのです。それぞれの10.23通達への疑問を実際の行動に結びつけ、裁判という、おそらく人生初めての行動に一歩を踏み出したのです。
ですから、その動機は実にさまざまでした。しかし、延べ600名を超える都立高校の教職員がこのような行動を起こしたことは、事実であり、10.23通達の及ぼす影響の大きさを示すものです。思いの強弱は人それぞれです。想像の範囲で、その動機を分析・整理してみました。
思いつくまま、列挙してみましたが、その広範な影響に改めて驚きました。足りない部分は、ご指摘ください。
1.思想・信条の自由について
「日の丸・君が代」の問題については、思想・信条により意見が大きく分かれるところです。教員という職業は、最も思想・信条に素直でなければ成り立ちません。従順であることは簡単ですが、素直であることはときとして勇気が必要です。処分を恐れて、意思に反した教育をすることは教師としてできないことです。もちろん、生徒の思想・信条の自由を守らなければならないのは、教師として当然のことです。(詳細はここをクリック)
2.「信教の自由」について
信仰は、神に対する絶対的な信頼、帰依が前提となります。憲法に「信教の自由」が明記される理由は、その絶対性にあります。「日の丸」等の偶像・象徴に対する敬意の表現、「君が代」など特定のものを賛美する行為は耐えられないことです。逆に、「日の丸・君が代」は神道行事としての色あいが強く、教育の現場で執り行うことには疑問が残ります。(詳細はここをクリック)
3.「不当な支配」について
「不当な支配」とは、教育基本法で用いられる用語です。戦後、国家による教育への介入に対する反省から生まれた言葉です。安倍政権により教育基本法は大きく変更されましたが、この言葉は生き残りました。憲法など、基本法と呼ばれる条文の解釈は、裁判を通して具体的に肉付けされていくものです。この裁判が大きな意味を持つことは、この点にあります。 (詳細はここをクリック)
4.教師としての責任
「教育」という活動は、親や教師を信頼することから始まります。子供は、親や教師のすべてを受け入れながら育ちます。自我がうまれ、価値観を意識し、思想・信条を確立するまで、親や教師・社会にはその責任があると思います。教師は可能な限り、「誠実」であることが要求されます。自身が「誤りである」と感じることを実行して、子供達に「見習え」と要求してはいけないと思います。(詳細はここをクリック)
5.戦前の教育に対する反省
「読み書きそろばん」の寺子屋教育から、明治政府は「富国強兵」の掛け声とともに、国定教科書から始まる、一貫した教育への介入を行いました。天皇を利用した、教育勅語などによる思想統制。「視学」による監視体制。「戦時」を口実に、異なる意見の弾圧。それらの反省から、戦後の教育は始まりました。政治が教育へ介入することがいかに危険であるかは、忘れてはいけません。
6.「日の丸・君が代」に対する考え方
旗と歌には、集団をまとめ、力づける力があります。校歌には母校に対する愛惜の情がこめられます。「信濃の国」は長野県民をひとつにする力があります。オリンピックなどでは、よい効果をもたらすことがあります。しかし、この力を逆に利用した場合には、たとえば、戦前に戦争への「日の丸・君が代」が果たした(利用された)役割を考えると、教育の世界への導入は大きな危険性を含んでいると感じられます。(国旗国歌法に関連しての陳述)
7.ナチスの歴史に学ぶもの
いまさら、「ナチス」、という批判もあるでしょうが、歴史に学ぶということは、「できることなら繰り返したくない」ということです。ナチスの時代に「旗」と「歌」が果たした役割を考え、教育がどのように利用されたかを考えると、もう一度振り返って考えてみる必要があります。曰く「経済の再生が優先課題だ」曰く「これしか方法はない」曰く「国土・国民を守る」、「優秀な文化・民族」「団結・一丸」などなど、どこの、いつの時代の言葉の数々でしょうか。ナチスの決め言葉でした。(詳細はここをクリック)
8.外国人生徒への配慮
都立高校には、外国籍生徒を受け入れる特別枠を設けている学校もあります。また、外国籍でありながら、「通称名」で入学する生徒も多くいます。偏見や差別、いじめを受けることを避けるためです。過去の侵略戦争という歴史を考えると、その当事者(生徒およびその保護者)の出席する行事での配慮は必要で、強制は容認できません。(詳細はここをクリック)
9.卒業式の形態への工夫
都立高校はそれぞれの学校の歴史の中、工夫を重ねて、特色ある卒業式を行ってきました。特に、特別支援学校(障がい児学校)は、子供たちが参加することに大きな意義を認めています。家族や友人たちの祝福を受けている実感、自身の力で(文字通りの意味で)卒業証書を受け取ること、これらを感じられる卒業式を目指していました。その努力を踏みにじる暴挙なのです。
10.「処分」について
10.23通達そのものに、校長に「処分を行うことを周知するように」という一項が盛り込まれました。その内容の厳しさを見ると、反対する教職員を職場から排除する方向性が明確に読み取れます。それ以外にも、「あらゆる手段を駆使して」と表現してもおかしくないくらいの通達等が発出されました。 (詳細はここをクリック)