争点6

「日の丸・君が代」に関しては様々な意見があります。主なものは、
①戦前、生徒を戦争に駆り立てる道具として利用された。
②制定過程に疑問を持つもの
③内心の自由。「強制」することへの反論
などなど。

国旗国歌法(1999)
第1条 国旗は日章旗とする
第2条 国歌は君が代とする
(以上が全文です)

国旗国歌法に関連して、弁護団からの意見陳述(5次訴訟)

代理人弁護士 白井劍意見陳述要旨

このほど提出した準備書面(6)では、国旗国歌法の立法趣旨からして起立斉唱の義務づけは許されないことを述べました。6分のお時間を頂戴いたします。

国旗国歌法の法案作成過程では、国旗国歌の尊重義務が条項から慎重に除外されました。2009年8月18日付朝日新聞には、法案作成に携わった人たちのインタビューが載っています。当時の官房副長官はこう述べています。「尊重義務などを書けば、罰則がなくても『義務を守らないのは,けしからん』などと言い出す人がいるかもしれない。そうした余地はないほうがいい」。当時の内閣法制局長官はこう言っています。「君が代を歌わないことをとやかく言われたり国旗に敬礼しなければいけなかったりする社会は窮屈だ。歌いたくなければ歌わずに済む社会が私はいい」。内閣官房長官であった野中広務氏は、法制化から4年経って10・23通達が発出されたのちに,教職員に対する懲戒処分について日弁連のインタビューに答えて「立つ,立たん,歌う,歌わんで処分までやっていくというのは制定に尽力した私の気持ちとしては不本意で,そのような争いを残念に思っております」と語っています。国旗国歌を尊重することを義務づけすべきでないとして,国旗国歌の尊重義務が法案作成過程で慎重に除かれたのです。しかし,それでも国会審議が進むにつれ国論を二分する国民的大議論が沸き起こりました。これを反映して国会でも白熱した議論になりました。政府は,「強制しない」,「教育現場での取り扱いに変更をもたらさない」と,くり返し一貫して答弁しました。  内閣総理大臣「学校における国旗と国歌の指導は・・・義務づけを行うことは考えておらず,現行の運用に変更が生ずることにはならない」。   内閣官房長官「学校現場におきます内心の自由というものが言われましたように,・‥式典等においてこれを,起立する自由もあれば,また起立しない自由もあろうと思うわけでございますし,斉唱する自由もあれば斉唱しない自由もあろうかと思うわけでございまして,この法制化はそれを画一的にしようというわけではございません」,  文部大臣「教育の現場というものは信頼関係でございますので,…処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階、万やむを得ないときというふうに考えております。  政府委員「単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われ…るということはあってはならないこと」。

そうして、ようやく成立にこぎつけた経過です。法制化直後の文部省通知も,「学校におけるこれまでの国旗及び国歌に関する指導の取扱いを変えるものではありません」と確認しています。

教育公務員に対しても義務づけはしない。教育現揚での取扱いを変えない。この国の立法府におけるその確認が,東京都においては一片の行政通達で簡単に反故にされてしまいました。それから18年余りが経ちます。

10・23通達の異常さの本質は,「多元的価値を認めない」ことにあります。日の丸に向かって起立して君が代を歌うことだけが正しい。この価値観を生徒たちに教える。それが10・23通達の狙いだと都教委自身が述べています。将来,生徒が社会に出て,「国歌斉唱をする場に臨んだとき,一人だけ,起立もしない,歌うこともしない,そして,周囲から批判を受ける,そのような結果にならないよう指導する」と都教委の答弁書に述べられています。

「周囲から批判を受ける結果にならないよう指導する」と都教委は言います。都教委のいう「指導」が効果を上げれば,尊重義務規定などなくても,国旗に向かって起立し国歌を斉唱しない人は,間違ったことをして「周囲から批判されるべき」人である,ということにされてしまいます。「指導」の効果を上げるため,教職員に起立斉唱を命じ懲戒処分を科して,「指導」を徹底しているのです。「指導」を受けた生徒が卒業して次々と社会に出ていく。時が経過すれば,「指導」の効果は,生徒を介して広く一般社会におよびます。それは,国旗国歌法に国旗国歌の尊重義務規定を入れたのと実質的に同じです。

法案作成過程で慎重に尊重義務規定が除外されました。国会審議でも侃々諤々の議論を経て義務づけしないとくり返し確認されて成立にいたりました。その法律の立法趣旨を下位規範である通達が打ち破るという倒錯が起きています。起立斉唱の義務づけは,国旗国歌法の立法趣旨からも許されないことといわねばなりません。

                        以上

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