予防訴訟➁

争点 1

 

1 争点1(本案前の答弁)について

(1) 具体的・現実的な紛争の解決を目的とする現行訴訟制度のもとにおいては,義務違反の結果として将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは,事前に上記義務の存否の確定、これに基づく処分の発動の差止めを求めることが当然のものとして許されているわけではない。しかしながら,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,上記処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否,処分の適否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めなければ著しく不相当となる特段の事情がある場合には,紛争の成熱性が認められるから,あらかじめ上記のような義務の存否の確定,これに基づく処分の発動の差止めを求める法律上の利益を認めることができるものと解するのが相当である(最―小判昭和47年11月30日民集26巻9号1746頁参照)。

(2) これを本件についてみてみるに,在職中の原告らは,今後も被告都教委から本件通達に基づく指導を受けた校長から入学式,卒業式等の式典において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱すること,ピアノ伴奏をすることについての職務命令を受けること,同職務命令を拒否した場合に戒告,減給、停職等の懲戒処分を受け,再発防止研修の受講を命じられること,定年退職後に再雇用を希望しても拒否されることはいずれも確実であると推認することができる。そうだとすると,在職中の原告らは,懲戒処分等の強制の下,自己の信念に従って入学式,卒業式等の式典において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱すること,ピアノ伴奏をすることについての職務命令を拒否するか,自己の信念に反して上記職務命令に従うかの岐路に立だされることになるのであって,上記職務命令が違法であった場合に侵害を受ける権利は,思想・良心の自由等の精神的自由権にかかわる権利であるから,権利侵害があった後に,処分取消請求,慰謝料請求等ができるとしても,そもそも事後的救済には馴染みにくい権利であるということができるうえ,入学式,卒栗式等の式典が毎年繰り返されることに照らすと,その侵害の程度も看過し難いものがあるということができる。また,在職中の原告らが,本件通達に基づく校長の職務命令に違反する毎に懲戒処分等の不利益処谷を受けることは確実であり,その処分は戒告,減給,停職と回数を重ねる毎に重い処分となっている。そうだとすると,在職中の原告らが,現在の状況で上記職務命令を拒否し続けた場合,懲戒免職処分となる可能性も否定することができず,これらの処分により原告らが受ける不利益は看過し難いものがあるといえる。これら在備中の原告らが侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性,不利益処分の内容及び性質に照らすと,在職中の原告らが本件通達に基づく校長の職務命令に反したとして行われるであろう懲戒処分の取消訴訟等の中で,事後的に,入学式,卒業式等の国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務,ピアノ伴奏をする義務の存否及び当該処分の適否を争ったのでは,回復し難い重大な損害を披るおそれがあると認めることができ,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情及び「重大な損害を生ずるおそれ」(平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟法37の4第1項)が認められる。

(3) したがって,原告らの訴えのうち公的義務の不存在確認請求,及び予防的不作為請求にかかる部分は適法というべきである。

 

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