声明・2004.4.5.

 

東京都の公務員は、処分が妥当でないと思うとき、直接裁判に訴えることはできません。人事委員会に対して「不服審査請求」を行い、その裁定を経なければいけません。しかし、人事委員会は裁定を引き延ばすことにより、裁判への移行を妨げています。この声明は、のちの「被処分者の会」の準備委員会が人事委員会に宛てたものです。当時の不安と混乱を表しています。ぜひ、ご一読を。

 

「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める
人事委員会への審査請求の申立にあたっての声明

2004年3月30日、東京都教育委員会は都立高校での卒業式における「国歌斉唱」時の不起立者等176人に対して、不当にも戒告処分の決定を強行しました。(注:1)私たちは、満身の怒りをこめて、都教委による教育破壊の暴挙を糾弾します。
昨年10月23日都教委の出した新「通達」のもとで行われた今回の卒業式は、まさに常軌を逸した異常ずくめのものでした。教職員一人一人に事前に「職務命令書」が手渡され、そこでは「式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことが「命令」されていたのです。そして、すべての学校に数名の都教委職員が派遣され、教職員席の中から、新「通達」どおり教職員の「起立」「斉唱」が行われているかどうか点検・監視が続けられました。(注:2)こうして、卒業生の感動的な新たな旅立ち、最後の授業たる卒業式が、行政権力による「強制」と「支配」の場に変質させられたのです。
しかも、卒業式直後に行われた不起立者等に対する、都教委による「事情聴取」もおよそ前例のない異常なものでした。(注:3)200名近い不起立者等をわずか1週間の間に立て続けに呼び出し、密室でメモ・記録も許されず、処分権者と本人だけのやりとりで「調書」の作成が強行されたのです。一方で、あくまで弁護士の立会を求めた70数名の不起立者に対しては、同席は認められないとかたくなに拒否し続け、「弁護士立会を求める者は、事情聴取を拒否したものとみなす」と一方的に通告し、本人の弁明の機会すら奪って今回の処分に及んだのです。その上、「永年勤続表彰」まで受けている退職者に対して、わずか一回の不起立で再雇用の任用取消を行ったことは、定年後の生活権まで奪う暴挙と言わなければなりません。(注:4)
さらに重大なことは、この間の経過の中で都教委が、教職員のみならず生徒たちの「内心の自由」をもあからさまに蹂躙する態度を鮮明にしたことです。今回の異常事態の中で「国歌斉唱」時に自主的に多数の生徒が着席した学校に対しては、教職員による「煽動」があったと決めつけ、関係教職員への「事情聴取」まで強行しました。そして、多数の生徒が着席していたクラスの「起立」していた担任までもが、「学習指導要領に基づく指導がなされていない」との理由で、今後新たな処分者リストに載せられようとしています。
また、驚くべきことに板橋高校では警察権力まで動員して、教職員に対する「取調」を強行しました。その上で、今後は「学校経営アドバイザー」なるものを配置し、学校現場を常時都教委の監視下に置くという暴挙まで決定したことは断じて許すことができません。
日本国憲法のもとで、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育」(教育基本法前文)は、一体どこへ行ってしまったのでしょうか。今や都教委の進める「教育改革」が、「国民のための教育」ではなく、「国家のための教育」であることが白日の下にさらけ出されました。東京の教育の今日の事態が示すものは、憲法で保障された「内心の自由」を踏みにじり、都教委による教育基本法「死文」化の危機と行っても過言ではありません。(注:5)
今回の都教委による異常、拙速な大量処分は、明らかに入学式を目前にした見せしめ的処分です。本日、私たち75名の被処分者は、都教委による教育破壊の暴挙を許さず、不当処分の取消を求めて、あえてこの時期に先行的に人事委員会への審査請求の申立を行いました。
今後続くであろう被処分者による審査請求申立としっかり手を携えて、不当処分撤回をめざし最後まで闘う決意をここに表明します。
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

2004年4月5日
「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会(準)

 

(注:1)3月の卒業式での処分を、3月中に行い、4月の入学式の行動にプレッシャーをかけようとしました。
(注:2)通達は、校長に対する職務命令でした。教育委員会は教員に直接命令することはできません。ですから、派遣された職員は、「校長を見張る」という役目も担っていました。(職員の席は、教員席の後ろに設置されました。)
(注:3)私の場合、学年末の多忙を極める時期に呼び出しをうけました。立ち合いの弁護士は認められず、メモをとることも許されず、周囲を取り囲まれた事情聴取でした。担当は、確か水道局の課長さんか誰かで、教育委員会がかき集めた状況がみえみえでした。聴取記録の確認を求められましたが、誤字脱字のあるひどいもので、訂正は聞き入れましたが、訂正印は、私の印でした。パソコンで正しい漢字を変換して確認するという、お粗末極まりないものでした。
(注:4)定年退職後の「再雇用拒否」は、最も大きな影響を与えた「処分」です。これは現在でも、最高裁が不問に付している課題です。定年間近で、5年間の再雇用の権限が都教委に握られているとしたら、「起立」した人を責めることはできません。このため、「不起立」は劇的に減少しました。こういうのを、「脅迫」というのではないでしょうか。
(注:5)このあと、第一次安倍内閣により、教育基本法は変えられました。憲法を守らず、法律を変えてでも、「言うことを聞かせる」という安倍内閣です。

以上、(注:永原)

戻る