声明・2012.2.9.

 

声   明

 本日,最高裁判所第一小法廷(宮川光治裁判長)は,都立学校の教職員ら403名(最高裁段階では375名)が,東京都と都教育委員会(都教委)を相手として,卒業式等において国歌の斉唱義務及びピアノ伴奏義務がないことの確認等と損害賠償を求めた訴訟(「いわゆる予防訴訟」)について,上告を棄却する判決を言い渡した。

この訴訟における主たる主張は,都教委が2003年10月23日付けで発した通達及びこれに基づく各都立学校校長の職務命令によって,卒業式等における国歌の起立斉唱(ピアノ伴奏)を義務付けることの違憲違法にある。「懲戒処分を甘受して自己の良心に従う」のか,それとも「懲戒処分を避けるために心ならずも自己の良心に背くのか」という,非人間的な選択を余儀なくさせること自体を思想・良心の自由侵害であるとして,職務命令には従えない人も,命令には従って起立せざるをえない人も,ともに原告となって「国歌斉唱(ピアノ伴奏)義務」がないことの確認と懲戒処分の事前差し止めを求めたものである。

本件の第一審判決(2006年9月21日東京地裁判決)は,都教委による教育破壊の実態を正確に捉えた上,10・23通達とそれに基づく校長の職務命令が,教職員の思想・良心の自由を侵害し,教育基本法(改正前)10条で禁止される「不当な支配」にも当たるとして,国歌斉唱義務不存在確認および懲戒処分の差止請求を認め,損害賠償をも命じた全面的勝訴判決であった。これが,通説的な憲法解釈に基づく結論にほかならない。

しかし,本日の判決は,昨年5月から7月にかけて言い渡された最高裁判決を引用し,国歌の起立斉唱(ピアノ伴奏)の義務付けが憲法19条に違反しないとして一審原告らの請求を斥けているが,かかる判断は,憲法が人権保障の核心的権利として思想・良心の自由を保障した趣旨を没却するものであり厳しく批判されなければならない。

また,本判決も,これまでの関連事件の最高裁判決と同様,教師の教育の自由侵害について,あるいは教育基本法(現行)16条が禁ずる「不当な支配」について上告理由に当たらないとして判断を示すことはなかった。最高裁が判断を示さなかったことによって,教育行政による教育に対する権力的介入の限界があいまいにされたといってよい。このことによって,教育行政が,これまで以上に教育に介入することは,断じて許されない。

もっとも本日の判決は,差止請求について,「本件通達を踏まえて懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在する状況の下では,事後的な損害の回復が著しく困難になることを考慮すると」,一審原告らに対する「重大な損害を生ずるおそれ」があるとし,また,確認の訴えについても累積加重システムの問題点を踏まえ,原審の判断を否定した。

さらに櫻井龍子裁判官は,補足意見で「教育の現場でこのような職務命令違反行為と懲戒処分がいたずらに繰り返されることは決して望ましいことではない。教育行政行政の責任者として,現場の教育担当者として,それぞれがこの問題に真摯に向かい合い,何が子供たちの教育にとって,また子供たちの将来にとって必要かつ適切なことかという視点にたち,現実に即した解決策を追求していく柔軟かつ建設的な対応が期待されるところである」と述べている。そして一連の判決のなかで初めて意見を述べた横田尤孝裁判官も,同種の意見を述べている。

また,宮川光治裁判長は反対意見として,10.23通達に基づく職務命令が憲法19条に違反するとともに教育の自由からも問題があり,また処分の差止請求が認められると判断している。そして,「思想の多様性を尊重する精神こそ,民主主義国家の存立の基盤であり,良き国際社会の形成にも貢献するものと考えられる」としたうえで,「自らの真摯な歴史観等に従った不起立行為等は」「少数者の思想の自由に属することとして,許容するという寛容が求められている」と述べている。

わたしたちは,多くの方々と協力し,上記補足意見の趣旨を踏まえて,都立学校で「自由で闊達な教育が実践されていく」よう,また,今後も,生徒に対する国歌の起立斉唱の強制とならないよう求め続けていく。

さらに,下級審に係属している事件の支援等を通じて,宮川裁判長の反対意見が多数意見となるよう訴え続けるとともに,教育の場における思想・良心の自由獲得と,教育行政の教育への不当な支配排除のための活動を続けることとする。

   2012年2月9日

                            国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟(予防訴訟)原告団・弁護団

                「日の丸・君が代」強制反対予防訴訟をすすめる会

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