最高裁判決に対する原告団・弁護団声明

声 明

1 2019 年3月28 日,最高裁判所第一小法廷(池上政幸裁判長)は,都立学校の教 職員 13 名(以下,「原告ら教職員」という)が「日の丸・君が代」強制にかかわる 懲戒処分(戒告処分 10 件)の取消しと損害賠償を求めていた上告事件及び上告受 理申立事件について,それぞれ上告棄却,上告申立不受理の決定をした。 あわせて,一審原告1名に対する原審における減給10 分の 1・1月の処分の取消 を維持して東京都の上告受理申し立てを受理しない旨の決定をし,減給処分を取り 消した東京高裁判決が確定した。 今回の最高裁の上告棄却及び上告不受理決定では,戒告処分の取消しが認められ なかったものの,最高裁が,2012 年1月16 日判決及び 2013年9月6日判決に沿 って,減給以上の処分による国歌の起立斉唱の強制を続けてきた都教委の暴走に一 定の歯止めをかけるものと評価できるものである。

2 本件は,東京都教育委員会(都教委)が,2003 年 10 月23 日に「入学式,卒業 式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」との通達(10・23 通達)を発 令し,全ての都立学校の校長に対し,教職員に「国旗に向かって起立し国歌を斉唱 すること」を命じる職務命令を出すことを強制し,さらに,国歌の起立斉唱命令に 違反した教職員に対して懲戒処分を科すことで,教職員らに対して国歌の起立斉唱 の義務付けを押し進める中で起きた事件である。 一審原告らは,自己の歴史観・人生観・宗教観等や長年の教育経験などから,国 歌の起立斉唱は,国家に対して敬意を表する態度を示すことであり,教育の場で画 一的に国家への敬意を表す態度を強制されることは,教育の本質に反し,許されな いという思いから,校長の職務命令に従って国歌を起立斉唱することが出来なかっ たものである。このような教職員に対し,都教委は,起立斉唱命令に従わなかった ことだけを理由として戒告・減給等の懲戒処分を科してきた。 なお,このような懲戒処分は,毎年,卒業式・入学式のたびに繰り返され,10・ 23 通達以降,本日まで,職務命令違反として懲戒処分が科された教職員は,のべ 480 名余にのぼる。この国歌の起立斉唱の強制のための懲戒処分について,2012 年1月16 日,最高裁判所第一小法廷は,懲戒処分のうち「戒告」は裁量権の逸脱・ 濫用とまではいえないものの,「減給」以上の処分は相当性がなく社会観念上著し く妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱・濫用しており違法であるとの判断を示してい た。

3 上記最高裁判決以降,都教委は 3回目の不起立までを戒告とし 4回目以降の不起 立に対して減給処分とする取り扱いをしてきた。本判決は,4 回目・5 回目の不起 立に対する減給処分を「減給以上の処分の相当性を基礎づける具体的な事情は認め られない」として取り消した原判決に対する東京都の上告受理申立てを受理しなか ったものである。 今回の上告不受理決定は,不起立の回数が減給処分の相当性を基礎づける具体的
な事情には当たらないとの判断を示した東京高裁判決を維持して,不起立の回数の みを理由とした処分の加重を否定したものである。 これまでの最高裁判決そして原判決に引き続き,都教委の過重な処分体制を許さ なかったことは,都教委による起立斉唱の強制に一定の歯止めをかける判断として 評価できる。

4 しかしながら,一審原告らは,真正面から 10・23 通達発出の必要性を支える立 法事実がないことを明らかにし,思想良心の自由と緊張関係に立つ職務命令の違憲 性を主張して上告してきたところであり,さらに,これまでの最高裁判決が判断を 示してこなかった,10・23 通達,職務命令,懲戒処分が,憲法 19 条,20 条,23 条,26 条が保障する教師の教育の自由を侵害,また,教育基本法 16 条が禁じる「不 当な支配」に該当するものであって違憲違法であることを主張して上告してきたと ころである。 すなわち,一審原告らは,これまでの最高裁判決を含む各判決に憲法解釈の誤り があることを理由として上告したのに対して,「本件上告の理由は,違憲をいうが, その実質は事実誤認若しくは単なる法令違反をいうもの」であるとして一審原告ら の上告を棄却した本件上告棄却決定自体,最高裁は正面から憲法判断をしなければ ならなかったにもかかわらず,必要な憲法判断を回避したものであって到底容認で きるものではない。 このような,最高裁の判断自体は,従前の最高裁判決に漫然と従って本決定に至 ったものであり,十分な審理を尽くさず,事案の本質を見誤ったまま上告を棄却し たものであって,憲法の番人たる責務を自ら放棄したとの批判を免れることはでき ない。

5 都教委は,この司法判断を踏まえて回数だけを理由として処分を加重する「国旗・ 国歌強制システム」を見直し,教職員に下した全ての懲戒処分を撤回するとともに, 将来にわたって一切の「国旗・国歌」に関する職務命令による懲戒処分及びそれを 理由とした服務事故再発防止研修を直ちにやめるべきである。 特に,都教委は,都教委がした違法な懲戒処分が取り消された事実を重く受け止 め,今回の上告不受理決定によって減給処分の取り消しが確定する一審原告に対し て,同一の職務命令違反の事実について重ねての懲戒処分はやめるべきである。 わたしたちは,本判決を機会に,都教委による「国旗・国歌」強制を撤廃させ, 児童・生徒のために真に自由闊達で自主的な教育を取り戻すための闘いにまい進す る決意であることを改めてここに宣言する。 この判決を機会に,教育現場での「国旗・国歌」の強制に反対するわたしたちの 訴えに対し,皆様のご支援をぜひともいただきたく,広く呼びかける次第である。

2019年4月1日 東京「君が代」裁判4次訴訟原告団・弁護団

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